緑内障診療について
GLAUCOMA緑内障
皆様が社会生活を送るうえで、眼科関連で最も耳にする言葉の一つに緑内障があり、特に日本人にとっては切っても切れないものとなっております。ここではその定義から診断方法・治療等について当院なりの特色も併せご説明します。
まず大きな概念として、それが存在した場合その進行予防を目的として一生戦っていく相手と考えております。ただ、日本を始めとした世界各国の先人たちの知恵と努力の結果、武器はかなり発達しています。孫氏を引き合いにさせて頂きますと、武器には相手を索敵する斥候(検査機器)、矢(点眼薬)、弓(手術設備)等ももちろん大事ですが、何といっても兵法(知識)さらに心構え(哲学)があります。相手は千差万別であり、当然対処法も多岐に渡ります。当院では、転勤のないプライベートクリニックという特色を活かし、皆様とともに長きにわたる戦いを生き抜けるようこれからも最新の武器を駆使して邁進してまいります。
緑内障の視野
CONCEPT緑内障の概念
目に入った視覚情報が網膜から脳に伝わるための伝導路(視神経)が障害される疾患で、日本人の場合疫学調査で20人中1人の割合で存在します。大抵において進行は非常に遅く、初期段階で自覚症状を感じることはほとんどないため早期緑内障は人間ドックで初めてみつかることが多いです。
残念ながら日本人の失明原因の第一位ですが、適切に治療継続してもそれに至る方は極々限られています。
DIAGNOSIS緑内障の診断
緑内障は構造、進行スピード、発症原因等様々な観点から分類されますが、結果として視神経障害をきたす病気ですので、状態を把握するためにはそれを描出する必要があります。緑内障診断には3つの検査(眼底・視野・眼圧)が必要です。
眼底検査
視神経が障害されている場合、網膜との移行部である視神経乳頭とその周囲に特徴的な変化が発生し、具体的には「視神経乳頭陥凹拡大とその周囲網膜神経線維層の菲薄化」と表現されます。現代ではその状態を医師が直接顕微鏡で観察する以外に様々な機器が登場・進化し、病態評価をより正確なものとしてくれています。その代表格として高精細な眼底カメラ、OCT・OCTangiographyがあります。ここでは当院で使用している最新の機種「TOPCON社製TRITON」「NIDEK社製RS3000advance」の画像を用いて説明します。
下に正常な視神経乳頭の写真と緑内障の写真を表示します。
正常な視神経乳頭には十分な厚みが存在し、その下流側である網膜の色彩も正常です。
一方、緑内障の視神経乳頭は大きな陥凹の存在により菲薄化し、下流側は栄養不足から委縮して色彩が暗くなっています。ある程度進行している場合は、このように明らかな変化として描出されます。
他方、微妙な場合はOCT・OCTangiographyが役立ちます。網膜は10層の神経線維から成りますが、緑内障で主に障害されうる層を画像取得し、内蔵された膨大な疫学データと対比しながら分かりやすく色分けして表記します。赤色表記されている箇所は障害されていることを指します。
視野検査
正常な場合、人間には片目につき縦に約135℃、横に約160℃の範囲が見えています。このことを前提として正常との違いを検出する検査の事を視野検査と言います。視野検査には人間がドーム状の機器を使用して行うタイプ「動的視野検査」とコンピュータープログラムを使用して行うタイプ「静的量的視野検査」があり、病状把握の過程で使い分けます。
見えていない部位と前述の眼底検査の結果の相関関係から緑内障の診断を行います。最近ではOCTの進化により、極微細な眼底障害も描出されるようになりましたが、主観的な検査である視野検査では、その変化が現れないことがあります。この際の判断は現代の眼科医によって分かれるところですが、当院の場合は、ご家族の履歴や他の疾病状況・患者様の意向を伺い、まずは経過観察とするか、治療開始とするか否かの決定をしております。
眼圧検査
眼内は房水と言われる液体で満たされており、茶目の裏側(毛様体)で産生され虹彩の裏を通過して茶目の前側と角膜の隙間にある網目フィルターを通過して目の外に排出されます。その産生量と排出量のバランスから圧力(眼圧)が決まり、日本人の正常値は10~21mmHgです。この圧力が高いと、接する視神経乳頭は圧迫による障害を被ります。ただ、眼圧が正常値より高いことだけが視神経障害の原因ではないことがわかっており、日本人緑内障保有者の7割は正常範囲内の眼圧にあります。
ただ医学の発達した現代においても、緑内障による視神経障害に対する治療法としてしっかり検証できているものは眼圧をより下げることだけです。(※昨今では眼内を含む循環の改善や視神経を保護する点眼剤、内服剤も開発されてきているので、この概念は医学の発展により変わる可能性が高いです。)
よって、眼圧検査は緑内障診断よりもむしろ治療効果判定指標の1つとして用いられることに主座が置かれます。点眼剤使用に代表される緑内障治療を開始してからの眼圧が治療前の眼圧と比較し、病期に応じてどの程度下げるかを計画し、それが達成されているかを見守っていくのが緑内障診療で重要な項目の1つです。眼圧を下げる手段には、各種点眼剤の他にレーザー治療や観血手術があり、緑内障のタイプや進行状況、患者様のおかれた生活状況等を総合的に検証し手段を決定して参ります。